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オペラ『いのち』

三重オペラ協会は設立以来18年のあいだ、数々のオペラや各種のコンサートを県内各地で開催してまいりました。平成25年度は928(土)、29(日)両日、三重県文化会館中ホールにおいて、新作オペラ「いのち」の公演を別記のとおり開催いたします。

オペラの台本は、当協会の芸術監督で指揮者の星出豊氏が20年以上も構想を温め、作曲を津市在住の錦かよ子氏に委嘱して完成しました。今年8月に長崎、9月に津市での上演が初演となります。

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舞台は、西洋との文化・交易の歴史ある長崎。先の戦争により、その美しい街や丘が一瞬にして廃墟と化し、多くの「いのち」が失われました。物語は泣き叫び、うめきながら消えていく「いのち」を救おうと必死の医師と看護師の姿、のちに被爆の後遺症と死の恐怖におびえながら、愛する非被爆者の医師との愛に苦悩する看護師の、まさに「生きる」「愛する」「いのち」とは何かを問いかける内容となっています。多くの子供たちが戦争のない世界にして欲しい…と願いながら亡くなっていくのをこの目で見、この耳で聞きました。生き残った者は、二度とこのような悲惨な戦争を起こさないように語り継ごうと誓い、みんな精一杯「いのち」を生きます。そして長崎は、愛と希望を失うことなく懸命に努力する人々によって、その廃墟の街をみごとに元の美しい港町に復興させました。

この作品は、苦悩しながらも頑張って生きていく人間の素晴らしさを、美しい「愛」の旋律と、苦悩に立ち向かう重々しい旋律で表現しながら戦争がもたらした悲劇と、人の「愛」「いのち」の尊さを描いたオペラになっています。

地球上のいろいろな国で「いのち」が粗末にあつかわれ、また、学校や家庭でさえも「いのち」の大切さを見失いがちな現在、これほどの重要なテーマを包含したオペラ作品はほかに見当たりません。この作品は単に日本だけでなく、世界に向けて発信できる内容であり、私たち音楽に携わる者としても是非とも成功させたいと強く念ずるところです。

 演奏は星出豊氏が自ら指揮し、少数のゲスト出演を除けば三重オペラ協会、三重フィルハーモニー交響楽団、合唱団「うたおに」、津児童合唱団など地元団体が出演、総力を挙げ、みなさまに感動していただける舞台にしたいと励んでいます。

【あらすじ】

1945 年8月9日、長崎の医師、松尾邦夫は福岡に行っていた。彼が長崎に戻った時には、想像を絶する変わり果てた街の姿と、被爆された方たちの惨状に唖然とするのであった。病院の看護婦(師)であった中沢夏子は、夜勤明けで自宅に帰り食事をし、防空壕に入った時に閃光を浴びた。彼女は周りの酷い惨状に驚きながらも比較的被害の少ない裏山を通って病院に向かった。裏山では救いを求める人々であふれていたが、あまりにもひどい症状と、人の多さに手の施しようもなく、助けを求めに病院へ急いだ。病院も被爆しており、病院での仕事におわれ、彼女は裏山に戻ることはできなかった。この状況では仕方がないと、自分に言い聞かせてはいたが、裏山で夏子に駆け寄ってきて「防空壕出たら 母ちゃんも父ちゃんも真っ黒だった おねえちゃん 私これから良い子になるから 母ちゃんに会わせて!」と泣き叫んだ子どもの言葉と子どもの安否だけは一時も忘れることがなかった。被爆した自分の身体と向き合って生きてきた夏子には、人には話せない苦しい辛い事情があった。自分を捨てて、人を助けるために人生の総てを捧げる決心をしていたのもその為であった。松尾は長崎に戻って病院に勤務するが、その病院に勤務する者の中にも多くの被爆者がいた。その中の一人看護婦(師)の中沢夏子も、被爆の後遺症に苦しみながらも必死に勤務していた。特に被爆の後遺症「原爆症」に罹っている患者さんに対しての夏子の献身的な態度は、松尾の心を捉えて離さなかった。夏子にも松尾の心は伝わっており、夏子自身の心も松尾へと傾いていた。松尾はついに心のうちを夏子に打ち明け、結婚の申し込みをしたのだが、夏子は結婚の話になると、なぜか話をそらせてしまい、肯定も否定もしなかった。そんなある日、夏子が倒れ病院に運ばれた。松尾は夏子の主治医から、夏子の病状、被爆をしながら生きてきた主治医自身の悲しい衝撃的な話を聞かされた。総てを知った松尾は、病床にいる夏子にもう一度結婚したいことを告げた。夏子は、自分が告知をされていること、被爆した身体であることを承知での求婚に勇気付けられ、心の総てを松尾に開こうと決心し、結婚を承諾する。しかし夏子は翌年他界してしまう。このオペラは松尾医師の回想により夏子の被爆体験談、そして生きぬいていこうとする人々に襲い掛かる戦争の悲劇を夏子の代わりに語っていく。